2022年1月21日(金)に、片山慎三監督初の商業映画であり、主演を佐藤二朗がつとめる映画『さがす』が公開されます。当記事では、試写会に参加させていただいた筆者がその内容をネタバレしないようにご紹介していきます。

本作の内容はシリアスですがすべての映画ファン、邦画ファン、そして普段映画を見ない人にもぜひ観てほしい傑作でした。

そこで今回は、普段映画を観ていない人にこそ、本作を見てほしい4つの理由を解説していきます!

映画『さがす』 レビュー 佐藤二朗の不気味な演技が光る…!

知的障がいの妹に売春をさせて貧困から抜け出そうとする兄妹を描いた『岬の兄妹』(2018)で強烈な印象を与えた、片山慎三監督の初商業映画『さがす』は2022年1月21日(金)公開されます。

本作の主演を務めるのはドラマ・映画に多数出演する佐藤二朗。 映画で彼が演じる役は多種多様ながら、テレビで見る彼のイメージと言えば『勇者ヨシヒコ』シリーズの"仏"役や、『今日から俺は!』の赤坂哲夫役など、福田雄一監督作を中心にひょうきんなキャラのイメージが強いのではないでしょうか。

しかし本作では地上波で見ることのできない佐藤二朗の不気味かつシリアスな演技がひかります。

タイトル さがす
公開日 2022年1月21日
監督 片山慎三
脚本 片山慎三 小寺和久 高田亮
出演 佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、石井正太朗、松岡依都美、成嶋瞳子、品川徹
制作 日本(2022年)
公式Web、関連リンク https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/

映画『さがす』あらすじ

大阪の下町で平穏に暮らす原田智と中学生の娘・楓。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。いつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし、その翌朝、智は煙のように姿を消す。
ひとり残された楓は孤独と不安を押し殺し、父をさがし始めるが、警察でも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にもされない。それでも必死に手掛かりを求めていくと、日雇い現場に父の名前があることを知る。「お父ちゃん!」だが、その声に振り向いたのはまったく知らない若い男だった。

失意に打ちひしがれる中、無造作に貼られた「連続殺人犯」の指名手配チラシを見る楓。そこには日雇い現場で振り向いた若い男の顔写真があった――。

映画『さがす』公式サイトより

主演を務める佐藤二朗は俳優だけでなく『はるヲうるひと』(20)など監督としての活動も行っており、彼の経歴を見れば地上波で知る顔はほんの一部に過ぎないことが分かります。そうしたギャップが非常にダイレクトに感じる点も映画『さがす』の魅力なのです!

佐藤二朗演じる主人公の娘を演じるのは『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)で注目を集めた伊東蒼。共演には『渇き。』(14)や『東京リベンジャーズ』(21)にも出演する清水尋也や、Netflixオリジナルドラマ『全裸監督』に出演した森田望智などが出演しており、重くハードなサスペンスドラマに個性的なキャストが集っています。

見てほしい理由1:
佐藤二朗のテレビでは見られない怪演技を堪能できる

画像映画『さがす』本予告動画より
画像映画『さがす』本予告動画より

テレビドラマだけでなく、バラエティ番組のMC務める佐藤二朗ですが、映画『さがす』で演じる原田智徹底的に好感度の低いダメで自堕落な中年男。20円足りないからと万引きをして身柄を娘に引き取られても反省の様子は見せず、食事もくちゃくちゃと音を立てる下品な男です。以前は卓球クラブを運営していたものの失敗し、現在は日雇いの現場作業員として働いています。

決して裕福ではない生活を送る一方で、娘に見せるユーモアな一面も見せており、決して父娘関係が悪いわけでありません。それゆえに、つかみどころが分からない、絶妙なキャラクターを見せてきます。

特に原田智が失踪した理由が明らかになっていく過程では、テレビでは決してみられない佐藤二朗のシリアスな演技が目白押し。テレビで見る佐藤二朗とのギャップを楽しめる異色作となっています。しかも『さがす』は脚本の段階から佐藤二朗で当て書きされたというのだから驚きです。片山慎三監督には、この不気味な男を演じる佐藤二朗が見えていたということですから…。

映画『さがす』を見てほしい理由2:
娘・楓を演じる伊東蒼のアウトローキャラが凄い!

公式予告のスクリーンショット (C)2022「さがす」製作委員会
画像映画『さがす』本予告動画より

映画『さがす』の魅力は佐藤二朗の演技だけではありません。彼が演じる原田智の娘・楓(伊東蒼)のキャラクターも非常にパワフルです。

いなくなった父親を必死で探す姿は涙を誘う…というわけでなく、父から「探さないでください」とメールが送られてくるとキレて周囲に当たり散らします。さらに父をさがすためなら、自分に好意を寄せている同級生男子(石井正太朗)を強引に捜索を手伝わせたり、父が働く現場の名簿を飄々と盗み見るなど、手段を選ばないアウトローさも気持ちが良いです。王道のドラマなどで登場する、悲劇に遭う子どもとは一線を画す態度や振る舞いを見せてくれるのです。

特に伊東蒼のアウトローな演技を感じられるのは、大人の善意(偽善も含め)が気に入らなければ徹底的に突っぱねるスタンス。世界広しと言えども、○○○に唾を吐く中学生は他で見れないでしょう……。

そもそも大人たちの善意は、楓が「父は帰ってくる」と受け身でいることを前提にしており、楓にも父は帰ってこないだとうと諦めムードを見せてきます。しかし楓は父の帰りを待つより、自力で見つけようと能動的な姿勢で捜索に挑んでいます。ここに大きな考え方の違いがあるからこそ、楓は大人たちに容赦なく反発しているのです。手段を選ばない楓の姿勢は(演出上のモラルも含め)あまりテレビではないものばかりで見ごたえ十分でした。

映画『さがす』を見てほしい理由3:
中学生と指名手配犯の追走劇が成立している凄さ

画像映画『さがす』本予告動画より

映画『さがす』では、突如失踪した父親を捜すだけでなく、父がいなくなったきっかけのひとつである指名手配犯・山内照巳こと"名無し"(清水尋也)と楓の追走劇も見どころのひとつ。

捨てアカウントを多用して被害者と合っていたことから"名無し"と呼ばれる男と、陸上部で足が速いとか、そんな特殊設定があるわけではない普通の中学生との追走劇なんて、普通に考えたら成立しなさそうですが…。これがちゃんと成立しているのだから面白いです。アウトローすぎて行動が読めない楓のキャラがあるからこそ、違和感なく演出としても成立していました。

そして父親がいなくなった真の理由も、この追走劇が成立する大きな理由となっていきます…。片山慎三監督の前作『岬の兄妹』は良い意味でエンタメ性があまりない、作家性の強い作品でした。その点、映画『さがす』では今回のような異色の追走劇もあって、普段映画をあまり見ない人でもとっかかりやすい入口が広がっているように感じられました。

映画『さがす』を見てほしい理由4:
テーマが重すぎて笑っていいのか戸惑うユーモアも!

画像はマジックハンドで指名手配犯と対峙する中学生の図 画像映画『さがす』本予告動画より
↑画像はマジックハンドで指名手配犯と対峙する中学生の図
画像映画『さがす』本予告動画より

「エンタメに振り切り過ぎたら逆に陳腐でしょ……」と思うかもしれませんが、本作は映倫の指定がPG-12なのが不思議なくらい重く暗いテーマを描いています。指名手配犯の『名無し』は死にたい人をSNSで探し、自らの手で殺すという手法をとっており、その残虐性は彼の性的嗜好(これもまた異様)にも大きく関わってきます。その描写も容赦ありません。

映画への入り口は広く、ショックを与えるところはしっかりある作品です。しかし、その一方でクスリと笑いを誘うシーンや、時折見せる佐藤二朗のどこか抜けたシーンや他人にクソミソに叱られる場面はシュールな笑いを誘います。ただ内容が重いゆえに笑っていいのか迷ってしまうのは否めません(そこが持ち味の作品なのではありますが)。

映画『さがす』 まとめ

重くハードな作品でありながら、佐藤二朗という国民的俳優のキャスティング、普通の中学生の視点から見る失踪事件の闇、エンタメ性ある追走劇など、意外にも鑑賞者に対する入り口が広いと感じた映画『さがす』。だからこそ、「映画は敷居が高そう…」と普段距離をとっている人にこそ、この映画で大いに衝撃を受けてほしい気持ちが湧いてくる作品でした!

ストーリー ★★★★★(5)
父の名を名乗る男の背景が明らかになる過程や、
中学生と指名手配犯の追走劇に引き込まれていく。
映像 ★★★★(4)
暗いテーマや血生臭い描写の間に、スッと入ってくる儚げな映像が印象的です。
オレンジを貪り食うシーンが強烈に記憶に残った
音楽 ★★★★★(5)
音楽もよい。エンドロールで流れるピンポン玉のラリー音に合わせた劇伴が最高!
サウンドトラックの発売も待たれる。
難解さ ★★★★★(5)
複雑に絡み合った3人の視点がラストにかけて重なっていく構成の妙。
難解だが、観る価値のある内容。
総合評価 ★★★★★(5)
暗いテーマ、シリアスな印象から、
とっつきにくそうに見えがちな作品ですが、見ごたえあり。万人みてほしい傑作
映画『さがす』のレビュー
(最大星5つ/0.5刻み/9段階評価)